私的おススメ音楽読み物 その5
2017/02/04
「蜜蜂と遠雷」 恩田 陸著、幻冬舎刊。
第156回直木賞受賞作品でご存知の方も多いかと思います。
架空の国際ピアノコンクールを舞台にしたお話なのですが、もしニュースなどで内容を耳にされて「あら、あの先生読んでるんじゃないかしら?」と思われた方がいらっしゃるなら、その予想は当たっています(笑)
言い訳がましいですが実はこちらの作品、直木賞を受賞される以前から品薄になるくらい話題になっており、私も昨年末に読みました。
作品自体は500ページ超の上下2段組みとなかなかのボリュームですが、スピード感のある進行なのでほとんど気になりません。
あらすじは3年毎に開催される芳ヶ江(よしがえ)国際ピアノコンクールに挑戦する4人のピアニストを中心に、彼らを取り巻く家族や友人、師匠、コンクール審査員の思惑や感情が交錯しながら一次予選から本選までの激闘が描かれています。
ほぼ全編、ひたすらコンクールの場面が続くのですが、ピアノに詳しくない方でもその圧倒的な臨場感に引き込まれてしまうエネルギーがあります。
また登場する4人のピアニストがこれまた魅力的なキャラクターで、自宅にピアノを持たない少年やかつて「天才少女」と名をはせた女性、音大出身で現在はサラリーマンをしている男性、アメリカの名門ジュリアード音楽院から挑戦に来た日系三世の男性とそれぞれにコンクールを受ける「背景」があり、読んでいくうちに全員に肩入れしてしまいます。
「最後は誰が優勝するのだろう?」と思わせながら読み手にどんどんページを繰らせる著者の手腕もさることながら、「構想12年、取材11年、執筆7年」かけた意気込みが作品全体から伝わってきます。
「音楽」や「ピアノ」をテーマにした漫画が今までもありましたが、文章だけで視覚化できない「音楽」をどうやって伝えるのだろうと興味がありましたが、著者ご自身もピアノの経験があり、演奏シーンは「行間から音楽が聞こえてくる」ほどリアリティーを伴っています。
爽やかな読後感も、すがすがしいです。
ただ、個人的な感想ですが、ほんの少しだけ「こんなに易々弾けたら誰も苦労はしないよなー」と軽い反発も覚えます。
勿論「プロの中のプロ」を選ぶためのコンクールなので、天才たちがしのぎを削り合う世界ですからレベルが違うとも言えますが、1つの曲を自分のものとして演奏できるようになるまでの、練習の苦労や葛藤はほとんど描かれていないので、現在進行形でピアノを習っている人には物足りなさがあるかもしれません。
ですがコンクール中であっても他者の演奏に触発されたり、もっと良い演奏をしてみせると奮起する様子は、プロも学習者も大差がないのだなと思わせてくれます。
上手になりたいと努力するから時には傷つく事もある、「真剣に向き合おう」とする行為にはプロもアマチュアも関係無いのだと思います。
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