私的おススメ音楽読み物 その4
「最後の秘境 東京藝大 天才たちのカオスな日常」
二宮 敦人著、新潮社刊。
帯には「全国の書店で爆発的に売れています!」の宣伝文句が。その他「入試倍率は東大の3倍!」「卒業後は行方不明多数」と興味をそそる煽り文句に、藝大をよく知らない方も「ちょっと読んでみようか」と言う気にさせる本です。
国内に「芸大」を名乗る大学はいくつかありますが、わざわざ「藝大」と旧漢字で表記するのはここ「東京藝術大学」だけです。
それだけで彼らのただならぬ「こだわり」が、ヒシヒシと伝わってきます。
東京藝大は「美術学部(通称:美校)」と「音楽学部(通称:音校)」の2つの学部から成り立っています。
筆者は奥様が美校の彫刻科の現役学生との事で、藝大生の生態に好奇心を持ち、美校だけでなく音校にも取材を試みています。
そこで出会った方々のビックリ生活ぶりは、「のだめカンタービレ」で広く知られる事になった音大生の奇人・変人の有様が、「ああ、やっぱり・・・」と納得させるに足る内容となっています。
ちなみに私は音大受験までお世話になった恩師が東京藝大出身だったので、音楽学部の学生の日常が記述通り(ピアノ専攻の学生はケガを恐れて洗い物どころか自転車にも乗らない、その他の器楽専攻の学生も毎日9時間練習等)なのは常識(?)として知っていたので、特筆する程でもないと思っていました。
しかしやはり一般の方々からすれば、だいぶ、いやかなり「奇天烈」なのだなと認識を改めました。
そして私自身もこちらの本で、今まであまり知る事の無かった「美校」の学生の姿も垣間見る事が出来ました。
金槌は大体20本くらい持っていて、それぞれを自分が使いやすいようにカスタマイズする、そうやって自分仕様にした工具で1年がかりで製作した作品を、展示が終わったらあっさり廃棄してしまう辺りは著者でなくても「もったいない」と思いますし、鬼気迫るものさえ感じます。
ですが我々が探求しようとしている「音楽」は、もっと刹那の芸術、録音していなければ時間の経過と共に消えてしまう、いわゆる「時間芸術」です。
指揮科の学生さんが「楽譜どおりに演奏するだけではダメなんです。作曲家の込めたものを汲み取らないと、曲の魅力は引き出せません」と語っていますが、その姿勢は藝大生であっても、プロの演奏家であっても、小学生であっても大して差は無いと思います。
「でもそこまで徹底して演奏しても、それが聴いている人に伝わりますか?普通の人はそんな所まで気にして聴いてないですよ」と言う意見もあるかと思いますが、残念ながらその通りの場合もあるでしょう。
しかし着物の裏地にこっそり柄物をあてるかの如く、一見、誰にも気が付かれない部分にまでこだわるのが「粋」であり、「芸術」なのだと思います。
そうやっていれば、いずれ誰かがその「こだわり」に気が付いてくれる可能性もあるでしょう。
「こだわり」を追求するあまり世間の常識から外れてしまった愛すべき非常識人達の生き様、音楽が好きな方には共感できる所があるのではないかと思います。
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